日本に生息せいそくするイヌワシつがいは,かつて全国に340ペア前後いたと考えられていますが,1986年に最初の1ペアが消滅しょうめつして以降いこう,現在までの37年間で120ペアが消滅しています.

 小澤会長が調査ちょうさしているフィールドではさらに状況じょうきょうひどく,70ペアいたものが現在は25ペアまで激減げきげんしています.

北陸地域(新潟・岐阜・長野を含む)のイヌワシつがい数の推移

 繁殖成功率はんしょくせいこうりつも1980年代前半は,50%を超えていましたが,現在では10%台の年が多く,悪化あっか一途いっとをたどっています.このような全国のデータは,日本イヌワシ研究会がHPや機関誌きかんしなどで詳細しょうさいに発表しています.

 母数ぼすうとなる観察ペアを増やしているためグラフの数値が安定していないように見えるものの,北陸地域ほくりくちいきでも全国と同様に繁殖成功率が悪化しています.

北陸地域(新潟・岐阜・長野を含む)のイヌワシ繁殖成功率の年変化

 日本人はこれまで,暖房だんぼう炊事すいじ,風呂といった生活全般をマキやすみ燃料ねんりょうとし,そして草や木の葉は畑の肥料ひりょう家畜かちく飼料しりょうとして山の木々をフル活用して生きてきました.また,政府せいふ拡大造林政策かくだいぞうりんせいさくにより,昭和30年代には,日本各地で伐採ばっさいされ丸裸まるはだかになった山々にスギやヒノキを植えました.しかし,その後,燃料は石油やガスなどの化石燃料かせきねんりょうに変わり,せっかく植えたスギやヒノキは大きく成長したものの,花粉で人々を悩ませるだけでほとんど使用されず,木材は安価あんか外国産がいこくさんに頼るという時代へ変化してしまいました.

 その結果,草地そうちや開けた土地での狩りを得意とくいとするイヌワシにとって,そして餌動物えさどうぶつであるノウサギやヤマドリなどの中型哺乳類ちゅうがたほにゅうるい鳥類ちょうるいにとって生きづらい環境となっていったのです.狩場かりばの減少と餌動物の減少は,イヌワシにとってダブルパンチ!こういったことから,日本のイヌワシは,現在なかなか繁殖できず,ペア数を減少させ続けているというわけです.「イヌワシとは?」で書いた“とんでもない大きさの行動圏こうどうけん”を持っていても,十分な餌が確保できないということです.

イヌワシの現状・伐採地や様々な樹齢の林がモザイク状に広がっており,イヌワシも生息していた

伐採地や様々な樹齢の林がモザイク状に広がっており,イヌワシも生息していた

イヌワシの現状・現在では大きく環境が変わり,多くのスギに覆われ空間がなくなった イヌワシペアは消滅した

現在では大きく環境が変わり,多くのスギに覆われ空間がなくなった
イヌワシペアは消滅した

きにわたり森林を活用し生活してきた日本人の生活様式せいかつようしき一変いっぺん.この50年で化石燃料にほぼ頼り切る生活に切り替えた.あまりに急激きゅうげきな日本人の生活変化には,イヌワシをはじめとする野生生物は到底とうていついていけるものではない・・・.