イヌワシ保護協会 設立によせて

 現在日本のイヌワシは,「イヌワシの現状」で記した通り,繁殖率の低下や個体数の減少から見ても,そして実際に山でイヌワシを見ていても,悪化の一途をたどっていることは間違いないと感じます.このままでは,本当に近い将来,「日本のほとんどの山からイヌワシが消える日が来てしまうのではないか!」と感じるほどです.
 私が,イヌワシを初めて見てからまだ28年.しかし,この28年という短い期間でも,年間150~250日とイヌワシの暮らすフィールドに入り観察してくると,ほんの一部に過ぎないとは思いますが,イヌワシの声や訴えを感じとれることがあります.「これを何とか,形にできないものか」,「そのイヌワシが求める環境づくりのお手伝いはできないものか」と考えたのがはじまりでした.
 そして,会の発足に至ったのは,せっかくイヌワシ保護をやっていくなら,「よくある“人間側の都合”を全て排除し,“イヌワシの都合”第一で活動したい!」そんな想いからでした.
 これまで,日本では様々なイヌワシ保護が計画・実行されてきました.しかし,その中には,その時そのペアにすべきではなかったと思える事業もたくさんありました.繁殖失敗原因の多くが餌不足によるものと分かっている状況下での「ヒナ移入事業(結果:複数羽のヒナの死亡)」,巣直近に掛けられた「大型監視カメラの設置(結果:入巣の妨害・ペア消滅)」,獲物を巣より高い位置で捕らえ,運んでくることが多いイヌワシへの「不適切地(低標高部など)の狩場造成(結果:狩場としてほぼ利用されず)」等々….もちろん,どれも「悪化し続けるイヌワシを何とかしたい!」,「1日でも早く何とかせねば!」と急いだ結果,計画・実施されてきた事だろうと思います.しかし,私が「すべきでなかった」と感じたように,しっかり背景を知り,改めて見直してみると,きっと皆さんも,それぞれ色んな事を思うのではないでしょうか?私は,これが大事だと思っています.皆さんの身近なところで計画された様々な保護活動を皆さんがよく見て,知り,ジャッジする.これは,もう立派な保護活動のひとつだと私は思います.是非ともそんな想いで,私たちの活動を含む,各所で行われる保護活動に注目してください.そして,もしも誤った方向に進もうとしている事業があった時は,しっかり声にしてご指摘ください.
 私たちも,最善と思い計画・実行した結果,失敗する事もあるかもしれません.しかし,その時は正直に皆さんにお伝えし,しっかり次に繋げるためにも,皆さんのご指摘含め何が悪かったのかを確実に検証したい!もちろん,成功した時も,偶然ではなく,本当に想定通りの成功であったのかの検証も必要だと思っています.
 私たちは,今後それぞれのペア,それぞれの環境が最も必要としていることは何かを一つひとつ丁寧にリストアップし,ベストな場所・形を選定していきたいと考えています.もちろん,それには相当日数の観察も必要であり,相当のエネルギーが必要になるでしょう.でも,我々はイヌワシの状況が改善されるなら,イヌワシを取り巻く環境が豊かで美しいものになるならそれをやりたいのです!
 本当に尊敬する人・愛する人に接するのと同じ.私は,イヌワシにも同じ想いをもって接し,活動していきたいと思っています.  
 そして,最後は,イヌワシが悠々と舞う谷で人々が笑顔で暮らしている!こんな環境こそが,我々人間にとっても,野生動物にとっても本当の意味で豊かな環境なのですから.

 そんな日本の風景を皆さんと,そして,一緒にやろうと立ち上がってくれた仲間たちと共に造っていくことを目標に!!

2021/03/10 

イヌワシ保護協会 会長 小澤 俊樹